マインドフルネス瞑想とは?
日本マインドフルネス学会の定義によると、「マインドフルネス」とは「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と表現されています。
マインドフルネス瞑想とは、この「マインドフルネス」の状態になるための一つの手法です。
元来、東洋の思想や宗教における修行・実践である瞑想をマサチューセッツ大学医学部名誉教授のJ.カバットジン(John Kabat-Zinn)[1] 氏が心理臨床にマインドフルネスとして導入したことで広く知られるようになりました。
マインドフルネス瞑想は、マインドフルネスストレス低減法[2] (MBSR:Mindfulness-based Stress reduction)と呼ばれる技法を1979年にJ.カバットジンが開発し、慢性疼痛や慢性ストレスへの対処法として医療分野で活用されています。
また、Google社が開発した瞑想法であるSIY(Search Inside Yourself)は心の知能指数であるEQを高め、集中力を向上させる効果が期待できると世界中のビジネスパーソンが実践してしています。
マインドフルネス瞑想は集中力向上に役立つ
前述のように、マインドフルネス瞑想は、集中力向上に役立つといわれています。
そして、そのメカニズムについて理解すると効果を実感しやすくなるといわれているため、ここではマインドフルネス瞑想が集中力向上に役立つメカニズムについて解説します。
効果を実感するためにも、ぜひ理解しましょう。
集中力とは?
集中力とは、認知心理学の分野では「注意」と表現するのが一般的で以下のような種類があります。
持続的注意 | 注意力を持続し、一つのことを続けること。 例)一定時間一つの作業を行う、集中して授業を受ける など |
選択的注意 | 複数の情報があるときに、そのなかから特定の情報に選択的に注意を向けること。カクテルパーティ効果と呼ばれる。 例)賑やかな場所でも自分の名前や自分に関連する言葉は簡単に聞き取ることができる、カフェなどで周囲がざわざわしている場所でも相手との会話は聞き取ることができる など |
分散的注意 | いくつかのことに同時に注意を向けながら行動する能力。 例)3人以上での会議、電話をしながらメモをとる、車を運転しながら同乗者と会話する など |
「集中力を高めたい」と願うビジネスパーソンは、スマートフォンの通知や電話・メールなど常に多くの刺激に晒されています。
このような刺激により、作業が中断してしまったり、周囲からの刺激により容易に気が散ってしまったりすると、作業効率が低下してしまうのです。
ビジネスパーソンの方々が高めたいと願う「集中力」とは、ここでいう「持続的注意」を高めることと捉えてよいでしょう。
一般的に集中力の持続時間は約15分といわれています。
マインドフルネス瞑想を行うと集中力が高まる理由
それでは、なぜマインドフルネス瞑想を行うと集中力が高まるのでしょうか。
ここでは、そのメカニズムについて解説します。
人間の脳は、何もせずにぼーっとしているときでも働き続けており、「脳のアイドリング状態」となっています。
この状態のときに活発になる脳の神経回路を「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」と呼び、マーカス・レイクル氏の論文(Raichle, Marcus E.”The Brain’s Dark Energy” Scientific American 302.3(2010): 44-49.)によると、実に脳の消費エネルギー量の60〜80%は脳のアイドリング状態であるデフォルト・モード・ネットワークのときに消費されているのです。
デフォルト・モード・ネットワークが活性化している状態では新しい気づきやアイデアが生まれ、創造性の高まりを実感できます。
しかし、デフォルト・モード・ネットワークが活発な状態が続くと、脳が大量のエネルギーを消耗し続けてしまうため、注意力(集中力)や意思決定の低下を引き起こし、うつ病などの病気を引き起こす可能性が高まると報告されています。
マインドフルネス瞑想を実践すると、このデフォルト・モード・ネットワークの働きが抑制されるため、脳を十分に休めることができ、集中力の向上に役立つのです。
集中力が向上するマインドフルネス
マインドフルネス瞑想とフロー状態の関係
「フロー(flow) 」とは、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、時間の歪みが生じるほど作業に没頭し、非常に高い集中力を発揮できる状態です。
高い集中力を保つことができ、自らのパフォーマンス向上が期待できるため、世界中のビジネスパーソンやアスリートが注目している概念の一つです。
いくつかの研究において、フロー状態の脳活動を調べたところ、フロー状態のときには理性を司る領域である前頭葉のシータ波が明らかに強く出るなど、前頭葉が活発に働いていることがわかっています。(Martin Ulrichら(2014), Kate C.ら(2016))
近年、マインドフルネス瞑想をしている場面において、フロー状態のときと同じような脳活動が観察されることが明らかになりました。
このことから、現在ではマインドフルネス瞑想とフロー状態には何らかの関連があるのではないかと考えられています。
Chenらの研究(Chen,J.H., Thai,P.H., Lin,Y.C., Chen, C.K., & Chen,C.Y.(2018). Mindfulness training enhances flow states and mental health among baseball players in Taiwan. Psychology research and behavior management, 12, pp.15-21.)によると、台湾の野球選手にマインドフルネストレーニングを実施したところ、フロー体験が深くなり、試合のパフォーマンスが向上したと報告されています。
まだ研究による解明が進められている段階ではありますが、一部の研究ではマインドフルネス瞑想に習熟することにより、フロー状態に入りやすくなることを示唆されているのです。
集中力が向上するマインドフルネス瞑想のやり方
ここからは、集中力を高めるマインドフルネス瞑想のやり方について紹介します。
環境を整えて必要物品を揃える
まず、マインドフルネス瞑想を実施する環境を整え、必要な物品を準備します。
必要物品は以下の通りです。
● タイマー
● 瞑想クッション(またはクッションや座布団)
可能であれば、ネクタイやベルトなど身体を締め付けるものを緩めるとよいでしょう。
マインドフルネス瞑想を実践するのに適した環境は以下の通りです。
● 騒音が少なく静か
● 一人になれる
● 適度な室温・湿度の保たれている
● 瞑想の姿勢を保てる
● その他、匂いなどほかの不快な刺激が少ない
特に瞑想初心者の場合は、なるべく瞑想の妨げになるような刺激が少ない環境で行えると、効果を実感しやすくなります。
マインドフルネス瞑想を実践する際のやり方・手順は以下の通りです。
(可能であれば)身体を締め付けるものを緩める・外す
タイマーをかける
目を閉じて瞑想の姿勢を整える
自分の呼吸に注意を向けて観察する
雑念が浮かんでもそれをそのまま受け止めて、再び呼吸に注意を向ける
タイマーが鳴ったら終了
マインドフルネス瞑想のやり方はとてもシンプルですので、手軽に実践できるでしょう。
効果的にマインドフルネス瞑想を実践するポイント
効果的にマインドフルネス瞑想を実践するために重要なポイントは、以下の2つです。
● 正しい姿勢を保つこと
● 正しい呼吸を行うこと
それぞれについて解説します。
正しい姿勢を保つ方法
マインドフルネス瞑想を効果的に実践する場合、正しい姿勢で行うことが非常に重要です。
以下のポイントを押さえて、正しい姿勢を保ちましょう。
● 椅子やソファを使う場合でも背もたれに寄りかからず、背筋を伸ばし、左右の骨盤に均等に体重を乗せて安定した姿勢を保つ
● 瞑想に理想的な身体の状態である「上虚下実」、つまり上半身は力が抜けて、下半身は充実した状態を作る
左右の坐骨に体重を均等に乗せて姿勢を安定させるのが難しい場合は、瞑想クッションを使用すると正しい姿勢を保ちやすくなります。
慣れない方は、瞑想クッションなどのクッションや膝掛けなどのやや分厚さのある布を折りたたんで使用し、姿勢を安定させましょう。
呼吸の方法
呼吸は、鼻呼吸で行うのが一般的です。
鼻呼吸では吸った空気が鼻腔内で適度な湿度を帯びて粘膜を傷めにくいのに加え、呼吸の量も調整しやすいため、質の良い呼吸を行うことが可能です。
口呼吸をすると、のどの粘膜が乾燥してしまうため、免疫機能が低下して感染症などにかかりやすくなってしまう恐れがあります。
鼻詰まりがあるなどの事情で鼻呼吸が難しい場合を除き、なるべく鼻呼吸でゆったりとした呼吸をするのがよいでしょう。
瞑想の効果的な実践方法|シチュエーション別に実践のコツを紹介
せっかく瞑想を実践するのですから、なるべく効果的な方法で実践したいと考える方が多いのではないでしょうか。
ここでは、瞑想の効果的な実践方法に関して、シチュエーション別に実践のコツを紹介します。
職場で実践する場合
職場で行う場合は、休憩時間に行うのが効果的です。
業務時間内で行うと、周囲の目が気になったり、スマートフォンの通知や電話などで中断されてしまったりする可能性が高く、瞑想に集中しにくいためです。
休憩室など一人になれる空間がある場合には、そのような場所に移動してマインドフルネス瞑想を行うとよいでしょう。
休憩室など一人になれる空間がない場合は、トイレの個室で短時間の瞑想を行う方法もあります。
どうしてもこのような環境で行うのが難しい場合には、作業などをしながらマインドフルネス瞑想を行う方法もあります。
マインドフルネス瞑想は、座ったり横になったりした状態でしかできないわけではありません。
マインドフルネスとは、「今この瞬間に意識を向けること」であるため、「動きに意識を向けて丁寧に行うこと」もマインドフル瞑想の一種なのです。
この方法であれば、「歩く瞑想」など動いた状態でもマインドフルネス瞑想を実践することができます。
オフィスで行う場合には、以下のような動きがやりやすいでしょう。
● 書類を整理する
● デスク周りを片付けて掃除をする
● 昼食をとる
● 飲み物を飲む
書類やデスク周りの物品を整理したり、拭き掃除をしたりする場面では、まずは散らかっている書類や物品を観察し、それを見たときの感覚を味わいます。
書類や物品を分別し適切な場所に収納する際の感覚・感情や、拭き掃除をしてデスクの汚れが取れたときの感覚・感情などに意識を向け、十分に感じましょう。
飲食する場合には、マインドフルネスの有名なワークの一つである「レーズンエクササイズ」のように、食べ物や飲み物を鑑賞し、香りを感じてから口に入れ、その感触や味、唾液の分泌具合などに注目してしっかりと味わうやり方で「食べる瞑想」を実践することもできます。
勤務時間内であったとしても、一人で作業や飲食をする場面ではマインドフルネス瞑想を実践できるのです。
通勤時に実践する場合
通勤時に座席に座ることができるのであれば、座った姿勢でのマインドフルネス瞑想を実践することができます。
周囲の雑音などが気になる場合には、ノイズキャンセリング機能付のイヤホンを使用すればやりやすいでしょう。
先ほどご紹介したように、動きに意識を向けて行うマインドフルネス瞑想も実践できます。
通勤時に歩く場面で「歩く瞑想」を行うことや、通勤電車の中で吊り革につかまっている場面でマインドフルネス瞑想を行うことができるでしょう。
「歩く瞑想」では、ただ歩くのではなく、地面に触れている足の裏の感覚や、外気の温度や湿度、風の流れ、人の話し声や車の音など五感をフルに使ってさまざまな感覚を味わいます。
電車内で吊り革につかまっている場面で行う場合には、吊り革に触れている手の感触や、電車の揺れにより得られる感覚、周囲の音や匂いなどに意識を向けたりするのも、マインドフルネス瞑想の実践となります。
休日に自宅で実践する場合
休日に自宅でマインドフルネス瞑想を実践する場合には、以下のようなシチュエーションが行いやすいでしょう。
● 起床前、ベッド(布団)の中で横になっている状態
● 起床後にベッド(布団)の上で座っている状態
● 椅子やソファに座っている状態
● ソファに横になっている、または座っている状態 など
マインドフルネス瞑想を始めたばかりの方は、どうしても周囲の人の気配や音などに気を取られてしまい、瞑想がうまくできなかったと感じてしまうことが多いものです。
マインドフルネス瞑想を効果的に行うためには、なるべく一人で静かな空間を保てる時間帯やシチュエーションを選ぶのがコツです。
休日は業務時間内よりも、ゆったりとした気持ちで瞑想に取り組める場合が多いため、初心者の方がマインドフルネス瞑想を行う練習をするのに最も適しているシチュエーションであると言っても過言ではないでしょう。
休日に自宅や外出時に実践する場合
動きに意識を向けるマインドフルネス瞑想の練習をする場合は、以下のようなシチュエーションがおすすめです。
● 家事(掃除・洗濯・料理など)を行っているとき
● 食事をしているとき
● 散歩をしているとき
● 書き物をしているとき など
これらの動きに意識を向けるマインドフルネス瞑想を行う場合にも、なるべく一人になれる時間帯やシチュエーションを選ぶのがよいでしょう。
ほかの人がそばにいるとどうしても、人の視線や気配などが気になってしまうケースが多いものです。
眠る前に実践する場合
眠る前に実践する場合には、睡眠環境を快適に保つことがマインドフルネス瞑想の効果を実感しやすくするためには重要なポイントとなります。
● 室温
● 湿度
● 照明
● 寝具の硬さ、肌触り
● パジャマの着心地、肌触り
● 香り
● 音 など
眠る前にマインドフルネス瞑想を実践するなら、そのまま眠っても問題ない環境を整えておくのがおすすめです。
初心者の方は、睡眠環境について上記の観点からなるべく不快感を減らし、快適さを高めるよう調整しましょう。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、許容室温範囲は13〜29℃とされています。
また、2018年にWHO(世界保健機関)が公表した「住宅と健康に関するガイドライン」によると、「冬の室温は18℃以上にすること」が推奨されています。[7]
湿度については、上記の厚生労働省が公表した指針によると「高湿度になると覚醒が増加し、深睡眠が減少する」と示されていますので、季節を問わず高すぎず低すぎずの湿度である40〜60%くらいの湿度を保つのが適当といえるでしょう。
音や香り、寝具やパジャマの材質などは、個人の好みによる影響が大きいと思われますので、あまり刺激が強すぎず心地良く感じられるものを選ぶと睡眠の質を高めてくれます。
まとめ
この記事では、集中力を高めるマインドフルネス瞑想の効果とやり方について解説しました。
情報過多の現代では、絶え間なくスマートフォンからの通知や仕事の連絡などが入ってくる状況下で成果を出し続けるためには、正しく情報を見極め、優先順位の高い業務に集中し、作業効率を追求しなければなりません。
このような現代だからこそ、マインドフルネス瞑想を活用して集中力を向上させる方法がビジネスパーソンの間で注目されているのでしょう。
毎日地道にマインドフルネス瞑想を継続することで、集中力や判断能力の向上を実感できるようになります。
継続するためにはマインドフルネス瞑想を実践する際のお気に入りグッズとして、瞑想クッションや集中力を高めるアロマなどを購入するのもおすすめです。
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お気に入りのグッズを使うことが楽しみとなり、自然と瞑想を継続できるようになる方が多いものです。
集中力の向上を図りたいビジネスパーソンの方は、この記事の内容を参考にマインドフルネス瞑想を日常生活に取り入れて実践しましょう。
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート チャディー・メン・タン著(2016). サーチ・インサイド・ユアセルフー仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法. 英治出版
吉田昌生著(2020). マインドフルネス瞑想入門. WAVE出版.
科学的側面からみたマインドフルネスとその実践【後編】―脳科学研究による実態解明―
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